病院の小児病棟。多くの人が行き交う日中の喧騒とは対照的に、早朝の廊下は静寂に包まれています。病棟保育士の一日は、この静けさの中から始まります。一般の奈良県の保育園とは全く異なる環境で、彼らはどのような時間を過ごし、子どもたちとどう向き合っているのでしょうか。医療チームの一員として専門性を発揮する、ある病棟保育士の一日を追いながら、そのリアルな仕事風景を覗いてみましょう。 午前8時30分、出勤。白衣に着替えてまず向かうのはナースステーションです。夜勤の看護師から、担当する子どもたち一人ひとりの夜間の様子や今日の体調、予定されている検査や処置について、詳細な申し送りを受けます。電子カルテにも目を通し、検査データや医師の指示を確認。子どもの安全を守り、適切なケアを提供するための、最も重要な情報収集の時間です。その後、プレイルームへ移動し、清掃と消毒、換気を行います。感染症のリスクが高い子どもたちが安心して過ごせるよう、環境整備には細心の注意を払います。おもちゃも一つひとつ丁寧に消毒し、その日の活動で使う教材の準備を整えます。 午前9時30分、保育活動の開始です。まずは各ベッドを回り、「おはよう」と声をかけながら子どもたちの様子を見て回るベッドサイド保育から始まります。体調が優れず部屋から出られない子には、ベッドの上で楽しめるパズルや絵本を用意し、一対一でじっくりと関わります。この時間は、子どもが心の内を話してくれる貴重な機会でもあります。一方、プレイルームでは、比較的元気な子どもたちが集まってきます。年齢も病状も様々な子どもたちが一緒に過ごすため、それぞれが楽しめるような遊びを複数用意し、子どもたちが主体的に選べるように配慮します。今日は、午前11時から心臓カテーテル検査を控えているAちゃんがいます。保育士は、人形を使って「もしもしする機械が胸の近くに来るよ」「眠くなるお薬を使うから、あっという間に終わるよ」と、Aちゃんが理解できる言葉でプレパレーションを行います。不安そうな表情だったAちゃんが、少し頷いてくれた時、保育士の心にも少し安堵が広がります。 午後1時、昼食を終え、午後の活動が始まります。この時間は、製作活動など、少し落ち着いた集団活動を行うことが多いです.今日は、季節に合わせて七夕飾りをみんなで作ります。ハサミを使う子、のりで貼り付ける子、それぞれの発達段階に合わせて、保育士はさりげなく手助けをします。短冊に「はやくおうちにかえれますように」と書かれた文字を見て、胸が締め付けられる思いがしますが、その願いが叶うようにと心の中で祈りながら、笑顔で子どもたちと向き合います。午後3時からは、多職種カンファレンスの時間です。医師、看護師、理学療法士、臨床心理士、ソーシャルワーカーなど、Aちゃんに関わる全ての専門職が一堂に会します。保育士は、「保育」の専門家として、日中のAちゃんの遊びの様子や友達との関わり、表情の変化などを報告します。「最近、粘土遊びに集中できるようになり、精神的に落ち着いてきているようです」。その一言が、Aちゃんの治療方針を検討する上で重要な情報となるのです。 午後4時、カンファレンスを終えて病棟に戻ると、保護者との面談が待っていました。B君のお母さんから、「最近、家でのきょうだいの赤ちゃん返りがひどくて…」と相談を受けます。保育士は、きょうだい児が抱える寂しさや不安に共感を示しながら、家庭でできる関わり方について一緒に考えます。このように、家族全体を支えることも、病棟保育士の大切な役割です。子どもたちの夕食が始まる頃、保育士は再びベッドサイドを回り、絵本を読んだり、静かな遊びをしたりして、子どもたちが穏やかな気持ちで夜を迎えられるよう関わります。午後5時15分、終業時間。その日の子どもたちの様子を保育記録に詳細にまとめ、夜勤の看護師に申し送りをして、一日の業務が終わります。病棟保育士の一日は、医療と保育、静と動がめまぐるしく交錯する、緊張感と温かさに満ちた時間なのです。
医療現場のリアル病棟保育士のある一日を追う