児童指導員の仕事は、その職場によって大きく表情を変えます。中でも、子どもたちの生活そのものに深く関わる「児童養護施設」での仕事は、最も包括的で、責任の重い現場の一つと言えるでしょう。そこには、日々の小さな喜びと、時に胸が張り裂けそうになるほどの葛藤が混在しています。ここでは、児童養護施設で働く中堅指導員のある一日に密着し、そのリアルな仕事風景と、やりがい、そして向き合わなければならない厳しさについて描いていきます。奈良の保育園で働くため朝6時30分。夜勤の職員からの申し送りを受け、一日は始まります。担当するユニット(小さな生活単位)の子どもたち一人ひとりの部屋を回り、「おはよう」と声をかけながら優しく起こします。なかなか起きられない子、朝から不機嫌な子、それぞれの個性に合わせた対応が必要です。リビングでは、朝食の準備をしながら、子どもたちの身支度を促します。歯磨きをしたか、着替えは済んだか、学校の持ち物は揃っているか。まるで大家族の母親のように、細やかに目を配ります。朝食の時間は、子どもたちの健康状態や気分をチェックする貴重な時間。「昨日よく眠れた?」「今日の給食、楽しみだね」。何気ない会話から、子どもたちの心の状態を読み取ります。慌ただしい朝が終わり、子どもたちを「いってらっしゃい」と笑顔で学校へ送り出すと、束の間の静寂が訪れます。しかし、休む間もなく、掃除や洗濯、事務作業、関係機関との電話連絡、そして職員会議が待っています。 午後3時過ぎ。学校を終えた子どもたちが、「ただいま!」と次々に帰ってきます。この瞬間、施設は再び活気と賑わいに包まれます。まずは、おやつの時間。今日あった出来事を楽しそうに話す子もいれば、友達と喧嘩して浮かない顔をしている子もいます。指導員は、一人ひとりの話に耳を傾け、その心に寄り添います。その後は、宿題の時間。分からない問題を一緒に考え、根気強く教えます。勉強が終われば、自由遊びの時間です。一緒に鬼ごっこで走り回ったり、ボードゲームで真剣勝負をしたり。この「遊び」を通して、子どもたちはエネルギーを発散させ、社会性を学び、指導員との信頼関係を深めていきます。時には、個別の面談時間も設けます。親との面会を前に不安定になっている子、思春期特有の悩みを抱える子。その子の心の扉を、焦らず、ゆっくりとノックします。 夕方6時、夕食の時間。みんなで食卓を囲む温かい時間は、家庭の温もりを感じてもらうための大切な営みです。入浴、自由時間を経て、夜が更けてくると、就寝準備が始まります。一日の終わりに、絵本を読んだり、今日あった良かったことを話し合ったりして、子どもたちが穏やかな気持ちで眠りにつけるよう心を配ります。「おやすみ」と一人ひとりの顔を見て声をかけ、部屋の明かりを消す。すべての子どもが寝静まった後、一日の出来事を詳細に記録する日誌の記入が待っています。この記録は、子どもの成長を追い、職員間で情報を共有するための、極めて重要な資料です。 この仕事のやりがいは、子どもの成長を生活のあらゆる場面で実感できることです。できなかったことができるようになった時、人を思いやる優しさを見せた時、そして、いつか施設を巣立っていった子が、立派な大人になって会いに来てくれた時。その喜びは、言葉に尽くせません。しかし、その裏には厳しい現実もあります。心に深い傷を負った子どもとの関わりの難しさ、試し行動に振り回されることの疲弊、保護者との関係構築の葛藤。子どもの人生を背負うことの責任の重さに、押しつぶされそうになる夜もあります。それでも、この仕事を続けるのは、信じているからです。どんな環境に生まれ育っても、子どもには幸せになる権利があり、無限の可能性があることを。その可能性の芽を、愛情という水で育み、未来へと繋いでいく。それが、児童指導員という仕事の、何よりの誇りなのです。
児童指導員のリアルな一日児童養護施設での仕事に密着