「あんなに大好きだった子どもたちが、可愛く思えない」「朝、どうしても体が動かず、涙が止まらない」。もしあなたが今、こんな状態にあるとしたら、それは単なる疲れや仕事への甘えではありません。心のエネルギーが完全に枯渇してしまった「バーンアウト(燃え尽き症候群)」のサインかもしれません。バーンアウトは、責任感が強く、真面目で、仕事に情熱を注いできた「頑張り屋さん」な人ほど陥りやすい、深刻な状態です。特に、他者の感情に寄り添い、自身の感情をコントロールすることが求められる「感情労働」の代表格である保育士は、バーンアウトのリスクが非常に高い職業の一つと言われています。心が完全に壊れてしまう前に、その危険なサインに気づき、正しく対処することが何よりも重要です。 バーンアウトには、代表的な三つの症状があります。一つ目は「情緒的消耗感」です。これは、仕事を通じて情緒的なエネルギーを使い果たし、心身ともに疲れ切ってしまった感覚を指します。何をしても楽しくなく、常に疲労感が抜けず、家に帰ると何もする気力が起きない。感情が枯渇し、喜んだり悲しんだりすることさえ億劫になります。二つ目は「脱人格化」です。これは、心の消耗から自分を守るために、子どもや保護者に対して、思いやりのない、非人間的な対応をとってしまう状態です。以前は一人ひとりに丁寧に関わっていたのに、今は事務的に、あるいは突き放すような態度しかとれない。子どもが話しかけてきても、心から応えることができず、距離を置こうとしてしまう。これは、あなたの性格が悪くなったわけではなく、心が悲鳴をあげている証拠なのです。そして三つ目が「個人的達成感の低下」です。仕事で何かを成し遂げても、全く達成感ややりがいを感じられなくなり、「自分はこの仕事に向いていないのではないか」「自分のやっていることに何の意味があるのだろう」と、自己評価が著しく低下します。 こうした症状に至る前には、いくつかの具体的なサインが現れます。「朝、なかなか起きられない」「理由もなく涙が出る」「頭痛や腹痛など、体の不調が続く」「仕事のミスが急に増えた」「遅刻や欠勤が増えがちになる」。これらは、心身が限界に近づいていることを知らせる危険信号です。なぜ、保育士はこれほどまでに燃え尽きやすいのでしょうか。それは、常に子どもの安全に気を配る緊張感、多様化する保護者のニーズへの対応、終わらない書類仕事といった物理的な負担に加え、「常に笑顔で、優しく、子どもの模範であらねばならない」という、目に見えない精神的なプレッシャーが大きく影響しています。自分のネガティブな感情を押し殺し、ポジティブな感情を演じ続けることは、少しずつ、しかし確実に心を摩耗させていくのです。理想の保育と、人手不足や制度の壁といった現実とのギャップに悩み、無力感を募らせることも、燃え尽きの引き金となります。 もし、あなたがバーンアウトの状態にある、あるいはその一歩手前にいると感じたら、まずやるべきことは「休むこと」です。これ以上、自分に鞭打って頑張り続けてはいけません。有給休暇を取得して、仕事から物理的にも心理的にも距離を置きましょう。それでも回復しない場合は、勇気を出して「休職」という選択肢を検討してください。そして、必ず専門家の助けを求めてください。心療内科や精神科を受診することに、何のうしろめたさも感じる必要はありません。それは、風邪をひいたら内科に行くのと同じ、ごく自然なことです。医師はあなたの状態を客観的に診断し、適切な治療や休養の必要性を判断してくれます。また、カウンセラーに話を聞いてもらうことも、絡まった思考や感情を整理する上で非常に有効です。大切なのは、決して「自分を責めない」こと。燃え尽きは、あなたが不真面目だからでも、弱いからでもなく、それだけ真剣に、誠実に仕事と向き合ってきた証なのです。まずは自分自身を労り、十分に休み、エネルギーを再充電する時間が必要です。壊れてしまった心は、必ず回復します。助けを求めることは、弱さではなく、賢明な強さなのです。
心が壊れる前に知ってほしい保育士の燃え尽き症候群